スタートはゆっくり、ゴールに近づくほど速く── それが「ビルドアップ走(BU走)」です。
序盤は余裕、終盤は息が上がる。 でも、不思議と“気持ちいい疲労”が残る。 この練習こそ、「走りながら強くなる」感覚を実感できるメニューです。
サブ3.5を狙うランナーにとって、ビルドアップ走は 「スピード」と「スタミナ」を同時に育てる魔法のような練習。 ペースを上げていく過程で、レース終盤に必要な“粘り”を自然に養えます。
2. Jack Danielsが語る「ペース変化の意味」
ランニング理論の権威 Jack Daniels はこう言っています。
“Your training should include controlled pace variations to teach your body how to adjust.”
(ペースを意図的に変えることで、身体は順応の仕方を学ぶ。)
つまり、ビルドアップ走はただのスピード練習ではなく、 身体に“リズム変化への対応力”を教える練習なのです。
同じペースを保つよりも、徐々に上げる方が精神的にも実戦に近く、 フルマラソンの後半(30〜40km)のペース維持力に直結します。
3. ビルドアップ走の目的と効果
- ① ペースコントロール力が身につく
- ② 疲労状態でもフォームを維持する練習になる
- ③ 「後半に強い」走りが身につく
特に40代・50代ランナーは、スピード練習だけだと疲労が抜けにくく、 LT走とロング走の“中間”としてビルドアップ走を入れるとバランスが取れます。
4. ペース設定と距離の目安
① サブ3.5ランナーのビルドアップ例
| 区間 | 距離 | ペース目安 | 感覚 |
|---|---|---|---|
| 第1段階 | 1〜5km | 6:00/km | 楽に会話できる |
| 第2段階 | 6〜10km | 5:30/km | 少しキツいが維持可能 |
| 第3段階 | 11〜15km | 5:00/km | 呼吸が乱れ始める |
このように3段階で上げていくのが定番。 最後の1kmでレースペース(4:58/km)に届けば理想的です。
慣れてきたら「20kmビルドアップ」に挑戦してみましょう。 Eペース走よりも刺激があり、LT走よりも継続しやすい絶妙な練習です。
5. 実践メニュー(私の体験例)
土曜の朝、まだ街が静かな時間。 Garminのアラートを“6:00→5:30→5:00”に設定し、 淡々とペースを刻む。
5kmごとに1段階ペースを上げていくと、 心拍も呼吸も自然に上がり、10kmを過ぎたあたりで汗が滝のように流れる。 それでも不思議と、「この苦しさ、心地いい」と感じる瞬間が来る。
最後の1km、Garminの画面に“4:55”が光ったとき、 「この走りがレース後半につながる」と確信しました。
6. 練習頻度と取り入れ方
ビルドアップ走は、LT走ほど強度は高くありませんが、 Eペースより疲労が残るため、週1回以下が目安。
| 週間スケジュール例 | メニュー |
|---|---|
| 火 | Eペース走(10km) |
| 木 | LT走(5km) |
| 土 | ビルドアップ走(15km) |
| 日 | ジョグまたは休養 |
特にLT走の翌日に行うのはNG。 疲労を抜いてからの方が効果が高まります。
7. よくある失敗と対策
- ① 最初から速すぎる: 1km目は「遅いかな?」くらいでちょうど良い。
- ② 上げすぎて終盤バテる: ペースを10秒ずつ上げる意識でOK。
- ③ フォームが乱れる: 終盤こそ姿勢・腕振りを意識。
ビルドアップ走の成功は、「最後までフォームを崩さず走り切ること」。 タイムよりも「上手く終える」ことに価値があります。
8. シューズ・補給・メンタルの整え方
- シューズ:反発+安定型(例:ナイキ ペガサス、アシックス マジックスピード)
- 補給:スタート前にカフェイン系ジェル1本(集中力UP)
- 音楽:アップテンポの曲を後半で入れると自然に上げやすい
終盤の5kmで苦しくなった時、私は心の中でこう唱えます。
「これは本番の35km地点だ」
そう思うだけで、不思議と脚が前に出る。 練習でもメンタルをレース仕様にしていくことが、 “最後まで走り切る力”につながります。
9. まとめ:「気持ちよく追い込む」練習を味方に
ビルドアップ走は、「苦しい=楽しい」に変わる唯一の練習。 タイムに追われず、体のリズムを感じながら、 後半に自然とペースが上がるように走ってみましょう。
Jack Danielsは言います:
“The best training teaches you to finish strong, not to start fast.”
(良いトレーニングとは、速く始めることではなく、強く終えることを教えるものだ。)
今日の10kmが、明日のフルマラソン後半を支える。 静かな朝に、ペースを少しずつ上げながら── あなたの中の“強いランナー”が、ひとつ成長していきます。
▶️ 次の記事:【インターバル走の実践と効果】へ続く(準備中)

コメント