1. LT走とは?「しんどいけど走り続けられる」強度

呼吸が乱れ、脚が重くなる──でも、不思議と止まらない。 心拍が上がり、汗が滝のように流れる。 そのギリギリのラインを走るのが、LT走(Lactate Threshold Run)です。

サブ3.5を目指すランナーにとって、LT走は“スピード持久力”を磨く要の練習。 簡単に言えば、「苦しいけど、まだいける」ペースで走る練習です。

この“苦楽の境界線”を理解することが、 フルマラソン後半の「35kmの壁」を突破する鍵になります。


Jack Daniels が定義する LT ペース

ランニング理論の大家 Jack Daniels は、LTペースをこう定義しています。

“The threshold pace is the effort you can hold for about one hour.”

(LTペースとは、約1時間ならギリギリ維持できる強度のことだ)

彼の研究によると、LT走の速度はVO₂maxの約88〜92%、 最大心拍数の85〜90%の範囲。 Eペースより明らかにきついが、レースペースほど追い込まない“中強度ゾーン”です。

サブ3.5を狙うなら、ペースは4分30〜4分40秒/kmが目安。 「会話ができないけど、5kmは頑張れる」──この感覚が合格ラインです。


2. なぜLT走がサブ3.5達成に効くのか?

① 乳酸をためにくくする“閾値”を押し上げる

人間の身体は、一定強度を超えると「乳酸」という疲労物質が溜まります。 LT走はその境界(Lactate Threshold)を“押し上げる”練習。 つまり、速いペースでも苦しく感じにくくなるのです。

② フル後半の「粘り」を強化できる

30km以降で脚が止まる最大の理由は、エネルギーではなく“筋持久力”。 LT走を定期的に行うと、脚の筋線維がより遅筋寄りに強化され、 後半でも動き続けられるようになります。

③ Eペース走と相乗効果を発揮する

Eペース走で「土台」を作り、LT走で「上限」を引き上げる。 この2つの練習を組み合わせると、身体が効率的に進化します。 Danielsもこう述べています:

“The combination of Easy and Threshold running is the foundation of any successful distance program.”

(EペースとLTペースの組み合わせこそ、すべての成功するランナーの基盤である)


3. 実践メニュー:LT走の組み方と進め方

① 初心者〜中級者の導入パターン

  • アップジョグ:2km(6:00/km)
  • LT走:4〜5km(4:35/km)
  • ダウンジョグ:1〜2km

初めのうちは5kmで十分。 「まだ行けそう」で止めるくらいがちょうど良いです。

② 慣れてきたらビルドアップ形式に

  • 10kmの中で、6〜10km区間をLTペース(4:35/km)に設定
  • もしくは3×10分(4:35/km)+リカバリー3分ジョグ ×3セット

こうした持続走+変化走が、最も効率的にLTを鍛えます。

③ 週1回が黄金比

LT走は負荷が高いので、週1回で十分。 他の日はEペース走または完全休養でバランスを取ります。


4. 練習中のリアルな体感とメンタル

実際にLT走をしていると、最初の1kmで「今日やめようかな」と思う瞬間があります。 呼吸が乱れ、脚が重い。でも2kmを過ぎる頃、呼吸が整ってくる不思議な感覚が訪れる。

“あ、いけるかも。” このゾーンに入ったら、そこからが本当のLT走。 苦しさとリズムが交錯する「ランナーズ・フロー」に入ります。

私も別府大分の調整期、毎週木曜の朝にLT走を入れていました。 真冬の冷気で喉が痛くなるほどの寒さの中、 Garminのアラートが4:35を示すと、心の中で小さくガッツポーズをしていたのを覚えています。

走り終えた後の充実感は格別。 「今日も自分に勝った」と思える瞬間こそ、LT走の醍醐味です。


5. LT走に向く装備と注意点

  • シューズ:軽量+クッション両立型(例:アシックス マジックスピード2、ナイキ ペガサスターボ)
  • 時計設定:ラップアラートを4:35/kmで設定
  • 補給:練習前にジェル半分 or アミノ酸1包
  • 体調管理:睡眠不足の日は避ける(オーバートレーニング注意)

また、Eペース走とのバランスを崩さないように。 「E:LT=3:1」くらいの割合で十分です。


6. まとめ:LT走は“苦しみを楽しむ練習”

LT走は「苦しい練習」の代名詞かもしれません。 でもその苦しさの中に、“走れる喜び”と“変わる実感”が詰まっています。

Danielsはこう言っています。

“Don’t run hard every day. Run smart, and run with purpose.”

(毎日全力で走るな。賢く、目的を持って走れ。)

あなたが今、Eペース走で積み上げた基礎をLT走で磨く。 その繰り返しが、サブ3.5への階段です。 40代・50代でもまだ伸びる── それを証明できるのは、あなた自身の脚です。

▶️ 次の記事:【30kmロング走のやり方と効果】へ続く(準備中)

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